大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 昭和58年(行コ)92号 判決 1984年6月18日

控訴人(原告) 山口八重

被控訴人(被告) 横浜市長

訴訟代理人 塩田省吾

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

控訴人は、「原判決を取り消す。本件を横浜地方裁判所に差し戻す。」との判決を求め、被控訴代理人は、控訴棄却の判決を求めた。

当事者双方の事実上及び法律上の主張並びに証拠の関係は、原判決事実摘示のとおりであるから、これを引用する。

理由

請求原因1及び2の事実は、当事者間に争いがない。

本件宅地付近の写真であることについて争いのない乙第一号証及び弁論の全趣旨によれば、本件宅地は既に造成を完了していることが認められ、また、日本信販から本件宅地を買い受けた控訴人の夫浩が昭和四三年一一月ころ地上に本件家屋を建築し、そのころから控訴人が浩と共に本件家屋に居住しているという被控訴人主張事実は、控訴人の明らかに争わないところであるから、これを自白したものとみなすべきである。

そこで、本件許可の無効確認を求める訴えの適否について判断する。

宅地造成等規制法(以下「法」という。)によれば、造成主は、宅地造成工事規制区域内において行われる宅地造成に関する工事(以下「宅地造成工事」という。)をしようとするときは、当該工事に着手する前に都道府県知事(いわゆる政令指定都市の区域内の土地については、指定都市の長。以下同じ。)の許可を受けなければならない(第八条第一項)のであるが、都道府県知事は、工事が法第九条の規定に適合しないと認めるときは、許可をしてはならない(第八条第二項)とされ、また、宅地造成工事は、政令で定める技術的基準に従い、擁壁又は排水施設の設置その他宅地造成に伴う災害を防止するため必要な措置が講ぜられたものでなければならないと規定され(第九条第一項)、造成主は、宅地造成工事完了後、工事が右規定に適合しているかどうかについて都道府県知事の検査を受け(第一二条第一項)、検査の結果工事が右規定に適合していると認めたときは、都道府県知事は検査済証を造成主に交付すること(第一二条第二項)とされている。他方、右規定に適合していない工事については、都道府県知事は、造成主に対して、工事の施行の停止を命じ、又は宅地造成に伴う災害の防止のため必要な措置をとることを命ずることができる(第一三条第二項)とされている。

このような法の規定から宅地造成工事についての都道府県知事の許可の性質を考えてみると、右の許可は、申請に係る工事計画が宅地造成工事の技術的基準等に関する法第九条第一項の規定に適合するものであることを公権的に判断するものであり、それにより申請に係る宅地造成工事が施行できるという効果が生ずるのであつて、災害防止のための措置が講ぜられた宅地造成工事を確保することを目的としたものと解される。

したがつて、判決により宅地造成工事の許可が取り消され、又はその無効が確認されれば、当該宅地造成工事を適法に施行することができなくなるのであるから、当該宅地造成工事の施行について法律上の利害を有する者は、右許可の取消し又は無効確認を訴求できると考えちれるが、宅地造成工事が既に完了している場合には、阻止すべき工事はないのであるから、訴えの利益は存在しないというべきである。

ところで、法によれば、宅地造成工事規制区域内の宅地の所有者等は、宅地造成に伴う災害が生じないようにその宅地を常時安全な状態に維持するように努めなければならず(第一五条第一項)、都道府県知事は、宅地造成に伴う災害の防止のため必要があると認めるときは、宅地の所有者等に対して災害の防止のため必要な措置をとることを勧告することができ(第一五条第二項)、また、宅地造成に伴う災害の防止のため必要な擁壁又は排水施設が設置されていないか、又は極めて不完全であるためこれを放置すれば災害の発生のおそれが著しい宅地があるときは、そのおそれを除去するための工事を行うことを当該宅地、擁壁、排水施設の所有者、管理者又は占有者(以下「宅地所有者等」という。)に対して命ずることもでき(第一六条第一項)、更に、右の宅地所有者等以外の者(例えば、造成主・工事施行者)の行為によつて災害の発生の著しいおそれが生じたことが明らかであり、その行為をした者に右の工事を行わせることが相当と認められ、かつ、これを行わせることについて当該宅地所有者等に異議がないときは、その行為者に工事を行うことを命ずることができる(第一六条第二項)とされている。

このように、宅地造成工事規制区域内の造成に係る宅地については、造成後においても、法第九条第一項の政令で定める技術的基準に適合するようにすることが望ましいとの観点から、当該宅地所有者等又は当該宅地の造成主等に対して一定の義務を負わせているものと解されるのであるが、これらは、造成宅地の現状に基づいて都道府県知事が判断するのであるから、当面する危険を防止するための方策であるといえる。したがつて、当該宅地につき、過去において法第八条第一項の許可がされた事実の有無とはかかわりのないことであり、過去に法第八条第一項の許可がされた造成宅地について、宅地所有者等又は造成主等に対して都道府県知事が一定の行為を命ずる場合、その許可が取り消され、又はその無効が確認される必要性のないことは明らかである。

本件宅地の造成工事が完了していることは前認定のとおりであるから、控訴人の本訴請求は、いずれの点からみても訴えの利益を欠き、不適法である。

よつて、本件訴えを却下した原判決は相当であるから、行政事件訴訟法第七条、民事訴訟法第三八四条、第九五条、第八九条に従い、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 賀集唱 裁判官 梅田晴亮 裁判官 上野精)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例